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注目の最新裁判例(懲戒解雇と退職金の不支給)

2020年9月1日
弁護士 藤田晃佑

さて、今回は令和2年1月29日に出された東京地方裁判所の判決を紹介させていただきます。従業員による情報漏えいについて、懲戒解雇を有効としながら、退職金については一部支払う義務があると判断した事案です。

1. 事案の概要

銀行に勤めていた従業員が対外秘とされた行内通達等を無断で多数持ち出し、出版社等に漏えいしたこと等から、銀行は、従業員を懲戒解雇し、懲戒処分を受けた者に対する退職金は不支給にすることができるという退職金規程に基づき退職金を支払いませんでした。これに対し、従業員は、銀行の懲戒解雇は無効であると主張するとともに、仮に懲戒解雇が有効であっても退職金の不支給は許されないとして訴えを提起しました。

2. 裁判所における判断

(1) 懲戒解雇の有効性について

裁判所は、

  • ① 銀行が情報セキュリティ規程を定めて従業員に情報セキュリティ対策の徹底を図っていたこと
  • ② 従業員が約3年半にわたって、厳格な管理を要する情報を含む4件の情報資産を持ち出し、少なくとも15件の情報を出版社等に常習的に漏えいしたこと

等を考慮し、懲戒解雇を有効と判断しました。

(2) 退職金の不支給について

裁判所は、

  • ① 銀行に具体的な経済的損失が発生していないこと
  • ② 情報の持出しや漏えい以外に従業員の30年以上に及ぶ勤続期間中の勤務態度や服務実績等が格別不良であったとする事情はうかがわれないこと

から、7割を不支給とする限度で合理性を有すると判断し、3割の退職金の支払いが必要であるとしました。

3. 退職金の不支給に関する裁判所の考え方

退職金規程を定めている多くの企業では、退職金の不支給事由として「懲戒解雇により退職した場合」を挙げています。そのため、このような規程を有する企業では、どのような場合であっても、懲戒解雇の場合は退職金を全額不支給としても問題はないと誤解されているケースがあります。

しかし、退職金が賃金の後払い的性格と功労報償的性格とを併せ持つ場合、裁判所は、退職金を不支給とするためには、「労働者が使用者に採用されて以降の長年の勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為がある場合に限られる」と限定的に解釈する傾向があります。

これまでの裁判例では、横領等の業務に関する犯罪行為や住宅手当の不正受給等の場合には、退職金全額の不支給を認め(大阪地判令和元年10月29日:横領、東京高判平成30年11月8日:住宅手当の不正受給)、他方で、職場外の非違行為(例えば、私生活において飲酒運転をした際の交通事故)については、懲戒解雇は有効と判断するものの、退職金全額の不支給は許さず、一部の支払いを命ずる傾向がありました(東京高判平成30年3月26日:75%不支給、東京高判平成25年7月18日:約70%不支給)。

本判決は、業務に関する非違行為について退職金を一部支払う必要があると判断した最新の裁判例として参考になりますので、ご紹介させていただきます。

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