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管理監督者該当性について ―日本マクドナルド事件判決―

弁護士 中村裕介

さて、2019年4月1日より労働時間法制の見直しを含む働き方改革関連法が順次施行され、また、本年4月1日より、労働基準法が改正され、賃金請求権の消滅時効期間が2年から5年(当分の間は3年)に延長される予定である等、近年、労働者の残業代請求に影響を与える重大な改正が相次いでいます。

以上を踏まえ、今月より、皆様に残業代請求のリスクを適正に把握していただくために使用者として理解しておくべき重要判例について情報配信をさせていただきます。

まずは、2回に分けて、「管理監督者」に関する重要判例を扱います。第1回では、管理監督者該当性を否定した日本マクドナルド事件判決(東京地判平成20年1月28日判例タイムズ1262号221頁)をとりあげたいと思います。なお、第2回では管理監督者該当性を認めた裁判例をご紹介させていただきます。

1. 管理監督者とは

皆様の中には、一部の管理職について、残業代や休日出勤手当を支払わないという制度を導入している企業がいらっしゃると思います。これは、法律的には、当該一部の管理職を「管理監督者」(労働基準法41条2号)に当たると整理しているということです。管理監督者は労働時間や休憩、休日に関する規制の適用が除外されますので、労働者から残業代請求がなされた事案では、使用者側から当該労働者が管理監督者であるため残業代請求は認められないという主張がなされることがあります。

管理監督者該当性は、

  • ① 経営者と一体的な立場で仕事をしているか否か(判断要素①
  • ② 出社退社や勤務時間について厳格な規制を受けていないかどうか(判断要素②
  • ③ その地位にふさわしい待遇がなされているか否か(判断要素③

の3つの要素を総合的に考慮して判断されており、部長や課長等の管理職の肩書きが付された者であれば管理監督者に該当するというものではありません。裁判例においては、管理監督者該当性は総じて厳格に判断されているといわれています。

これからご紹介させていただく日本マクドナルド事件判決においても、当該判断枠組みに沿った厳格な判断が下され、「名ばかり管理職訴訟」などと呼ばれて社会的に注目を浴びることとなりました。

2. 日本マクドナルド事件判決の概要

日本マクドナルド事件判決においては、日本マクドナルドの店長である原告の管理監督者該当性が争われました。

同判決では、原告は、アルバイト従業員の採用、時給額、勤務シフト等の決定を含む労務管理や店舗管理を行い、自己の勤務スケジュールも決定している立場にありましたが、

  • 営業時間、商品の種類と価格、仕入れ先などについては本社の方針に従わなければならず、企業全体の経営方針へも関与していないこと(判断要素①
  • 交代勤務に組み込まれて時間外労働が月100時間を超える場合がある程の長時間の時間外労働を余儀なくされていること(判断要素②
  • 店長の下位の職位の平均年収と比較しても十分な待遇とはいえないこと(判断要素③

等から、管理監督者該当性が否定されました。

3. 日本マクドナルド事件判決を踏まえ使用者が留意すべきポイント

日本マクドナルド事件判決では、判断要素①について企業全体の運営への関与を求めるかのような判断がなされており、極めて使用者サイドに厳しい判断となっています。

使用者としては、同判決を踏まえ、例えば、管理職の肩書きで労務管理や店舗管理等の業務を行う者であっても、代表者等に権限が集中しているような場合、経営者と一体とはいえないものとして管理監督者該当性が否定されるリスクがあることに留意すべきであると思料いたします。

さらには、出退勤や労働時間が管理され、早退・遅刻による給与減額がなされている場合はもちろん、日本マクドナルド事件判決のように交代勤務に組み込まれている場合であったり、時間外手当のある下位職種と比較して給与差があまりないようなケースでは、判断要素②判断要素③の観点から管理監督者該当性が否定されるリスクがあります。

次回は日本マクドナルド事件と異なり管理監督者該当性を認めた裁判例を紹介させていただきます。

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